東京医科大学 循環器内科同門会

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留学報告 廣瀬公彦先生2024.01.15

留学報告

鹿嶋ハートクリニック 循環器センター長

廣瀬 公彦

近森前主任教授のご支援をいただき、2022年5月より1年間、英国の名門大学の一つであるUCL(University College London)の遺伝性心臓病教室にてElliott教授のご指導のもと、留学させていただきましたことをご報告申し上げます。UCLは世界的にも研究が有名で、特に医学分野では、循環器疾患や癌などの先端的な研究を行っており、世界大学ランキングでは常にトップ10に入る実績を誇っております。日本の初代総理大臣である伊藤博文公もここに留学されており、日本とUCLの関係は古くから深いものがあります。

教室では心筋症の遺伝子研究が中心で、ロンドン市内主要病院でもあるSt Bartholomew’s Hospitalと主に提携しておりましたが、他施設との共同研究も多数行われておりました。また循環器内科のみならず、小児科との共同の研究もありました。イギリスは遺伝子検査が盛んに行われており、親に遺伝子異常があると、子供は幼少期から遺伝子検査が行われ、遺伝子異常を指摘されていることが多くあります。そのため、いつの時点から成人の循環器科に移行するかを、定期的に会議を開き議論しておりました。遺伝子データは膨大な量があり、また教室内には遺伝子学の教授も在籍しており、私はまず留学早々、遺伝子検査の方法や考え方を指導していただきました。また、職員に登録されると、どこにいても個人のパソコンから病院のカルテにアクセスでき、データを整理することができます。留学した2022年5月、日本はまだコロナ禍の影響を受けておりましたが、イギリスではすでに過去の話となっており、研究も盛んに行われておりました。一方、臨床すなわちNHS(National Health Service:国民保健サービス)は、コロナ禍を契機に危機に瀕しておりました。例えば、病院の救急外来は通常6時間から9時間待ちです。また胃が痛くて内視鏡検査を依頼したら、吐血など緊急性がなければ3ヶ月待ちです。心筋梗塞の患者が、搬送先がみつからず、救急車内で亡くなったという悲しいニュースもありました。ちなみに私の子供のアレルギー検査も、日本なら当日できる簡単な検査にもかかわらず、半年待ちでした。もちろんプライベートホスピタルにかかる人もいますが、費用が高いこともあり、多くの人はNHSの保険システムを利用しておりました。前から住んでいる住民に聞くと「コロナ禍前はここまで酷くなかったが、コロナ禍以降は崩壊した。」と言っていました。決して医師含めた医療従事者のモチベーションが低く働かないのではなく、時間外労働に対する規制や賃金の低下に加え、コロナ禍での医療従事者の減少もあり、需要と供給のバランスが保てていないことが一つ原因ではないかと思っています。イギリスの保険制度であるNHSは日本の保険システムと似ております。前例のない高齢化社会を迎える日本も、これから10年から20年後に同じ状況になるのではないかと少し危惧しております。

また、ロンドンは移民が多く、私の子供が小学校に通学していたこともあり、イギリス人以外の方とも接する機会が頻回にありました。実際に生活することにより、異文化の考え方や、日本との違いを学ぶことも多々ありました。例えば、研究室の同僚は、イギリス人とギリシャ人でしたが、それぞれの国により考え方の違いがあります。イギリスは事務手続きが日本と比べると驚くほど遅いです。留学前にすでにUCL職員並びにNHSスタッフの登録の手続きの書類を提出し、承認され就労ビザの手続きを行ったはずでしたが、実際に到着してみるとスタッフ申請は全く進んでいませんでした。そのため、大学施設内に入れないという、日本では信じられないことになってしまいました。再度スタッフ申請をし、UCLのスタッフ再申請は数日で承認されたのですが、NHSの職員登録は当初2ヶ月の予定が、結局3ヶ月かかりました。 イギリス人の同僚に「この国は2ヶ月と言われたら3ヶ月かかる。」と再申請の時に言われましたが、その通りになりました。日本なら期日を遅れることはほとんどありませんが、こちらは何度も催促し、やっと書類が出来上がります。いい意味で英語が鍛えられました。 一方同僚のギリシャ人は、「イギリスの事務はヨーロッパではまともな方で、ギリシャなら2ヶ月先のことはみんな忘れている。」と言っていたのが非常に印象的でした。彼らによると、期日通りにできるのは日本人だけだとのことです。イギリス人は、当初は真面目で紳士であると思っておりましたが、実際は大ごとにならなければそれで良いという大らかな人々でした。また、移民も多いロンドン市内の景観は、地区により色々と変わるのも興味深いです。地区により主な住民の国籍が違うのが一つの理由です。それぞれの国柄が出ているのが非常に興味深く、特にアラブ系の地区は独特の街並みに変わります。

一方、車の交通違反は日本と比べかなり合理的でした。町中にカメラがあり、違反をすれば証拠写真を添えて、罰金の請求書を自宅に送ってきます。支払いはネットでカード払いとなります。イギリスの交通ルールは少し複雑で、時間により右折や左折が禁止になることもあります。そのため瞬時に英語標識を理解しなければならない場合があり、これはこれで動体視力と英語力が鍛えられました。特に駐禁は、主に民間会社がスタッフを出来高報酬で雇っていることもあり、日本と比べかなり厳しかったです。ただ違反しそうになると、ドライバー同士で注意し合う温かい場面もあり、そういうところがロンドンの好きなところの一つです。また交通違反の請求書は非常に面白く、違反金の請求金額は、二週間以内に振り込んだら半額、2ヶ月以上かかったら2倍というシステムでした。 請求や罰金は即座に、書類や返金は文句を言わないと行われない国でしたが、不思議なことに帰国する頃には気にしなくなり、好きな国の一つになりました。

話は戻りますが、UCLでは貴重な経験をさせていただきました。Elliott教授と温かい同僚に助けていただきながら、与えられた研究を終わらせることができました。Elliott教授は、お忙しい中、私に研究の方法や最新の遺伝子の知識を教えてくださいました。また同僚の方々も、私にとても優しく接してくださり、楽しく充実した日々を過ごすことができました。近森前主任教授は、留学前から留学中まで、私の研究や生活に関して、常にご配慮やご助言を賜りました。また環境としても素晴らしく、広大な敷地で充実した施設、伝統のある場所で勉強させていただきました。留学を通して、私は心筋症や遺伝子研究に対する興味や知識を深めることができました。また、イギリスの医療制度や文化にも触れることができ、日本では経験できない体験を得ることができました。この留学経験は、私の今後の研究や臨床に大きく役立つと確信しております。 このような貴重な機会を与えてくださった近森前主任教授とElliott教授に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

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